その後の子猫


一週間経って元気になってきたように見える。まだ右前脚はほとんど動かせず、歩くときは引きずったままだけど、当初は足先が丸まってしまっていて(人間で言うならば)手の甲が下を向いたままだったのが、写真のとおり手のひらを下にして着けるようになったし、動かせないなりに扱えるようになったというか、こうやってお行儀よく座ることができるようになった。
保護した翌日(先週の月曜)に病院に連れていった時には、獣医さんから「かなり悪い状態なので右前脚を切ったほうが生存確率は遙かに上がる」という趣旨のことを言われた。前日に保護したばかりの縁もゆかりもない人間が「じゃあ、切ってください」とは決断できず、感染症で命を落とすリスクはあるものの、切らないで治療をしてもらうことに。
決断できなかったということもあるけれど、切らずに済めば完全に機能が回復しなかったとしても、子猫なのでその後の成長過程で不自由なりに足の扱い方を覚えるのではないかという期待と、そしてなにより目の光りが強かったので「生き延びられるのではないか」という直感があった。初回の診察途中で「昨日から全く食べていない」と伝えたところ「食べるかな?」と出されたキャットフードをガツガツ食べたのもその思いを後押しした。
先週はずっと毎日通院して傷の洗浄と抗生剤の注射、家でも抗生剤の飲み薬を飲み続け、週の前半は食べてひたすら寝ていたけれど、金曜の夜あたりから仮住まいのダンボールハウスに敷いてあるタオルのふちを囓りながら後ろ脚でキックしたり、子猫らしい仕草をするようになった。傷口も膿が溜まっているのもあって、血の気のない白っぽい状態だったのが、土曜日には血が通って赤く筋肉が浮き上がっているような様子に(痛そうな写真なのでクリックは要注意)。
今週は抗生剤を飲みつつ、一日おきに傷の洗浄。あとは傷口を塞ぐ皮膚がうまく再生してくれれば。まだ油断はできないけれど、危機は乗り越えた感じ。
「絶体絶命のピンチから脱出した」という意味を込めて、名前を「ルパン」と命名。飼い主の夕食のおかずを素早く盗んでいくくらい元気になってくれれば。
しかし人間でも動物でも眼力(めぢから)のある「いきもの」は表情が端正に見える。結構イケメンだと思うのは親バカならぬ、猫バカ?

子猫を拾ってしまった。


ケガをしている子猫を保護した、というか拾ってきてしまったのですが。
我が家の近所には何ヶ所か猫の集落があって、比較的小さな集落(一ないし二家族が居着いている)に子猫がいるとカミさんが言うので見に行ったところ、一匹、あまり動けないコがいて、抱き上げたら右前脚に大きな傷口。他の脚の倍くらい腫れている。どうやら動かせない様子なので骨も折れているかもしれない。

子猫って抱き上げてしまった瞬間に(子猫も抱き上げてしまった人間も)運命の半分くらい決まってしまうようなもので、子猫を飼ったことがある人ならわかると思うけれど、抱いてしまった瞬間に「情」が生まれてしまう。ケガをしていたならなおさら。
家に連れて帰って翌朝、動物病院に連れていったところ、骨は大丈夫そうだけど脚はもうほとんど動かせない様子。傷口から大量の膿を出して中を洗浄し、抗生剤を打って点滴をして一泊入院。今朝、迎えに行って家に連れて帰ってきた。ウチで抗生物質を飲みつつ、明日から数日、通院して様子を見る予定。食欲旺盛だし、なにより目の光りが強いのでなんとか元気になってくれるのではないかと。

野良猫たちをよく眺めていると、だんだんと猫センサーが鋭くなっていって、どこの街を歩いていても(自転車に乗っているときも)野良猫を見つけてしまう。そしてそのなかには時々ケガや病気でひどい状態の猫もいる。なんとかしてあげたい思っても、どうしようもない。もちろん絶対に助けたいという意志があれば助けられるのだけど。「なんとか生き延びて」と思いながらその場をあとにする。私が書くストーリーの中で登場人物が野良猫を拾うのは、そんな思い出への懺悔のよう。昔、拾ってきた子猫が私の手の中で息絶えてしまったことがあって、あの無力感を思い出すと今でも胸が痛くなる。多分、猫が死ぬシーンは一生書かないだろうな。

このコの母猫は、私がこのコを抱き上げるのをぼんやり見ていた。「このコを助けてくれるのならお願いします」なのか、もうすでにこのコへの気持ちが薄れていたのか。別の猫集落の母猫はいつも子猫のすぐ近くにいて、私が子猫に近寄ろうとすると思い切り威嚇する。母猫もいろいろだ。

なんとかこのまま元気になってくれれば、初めての三匹同居になるか。他の二匹の同意を取り付けなければ。

この夏、会いたい人に会いに行こう。

以前、よく仕事をお願いしていたカメラマンさんが一年前に亡くなっていたことを知った。80-90年代にアイドルをよく撮っていた方で、私が知り合ったころはすでに大御所に近い存在だったけど、いつも気さくで、予算のない私の仕事もよく引き受けてくれた。とにかく女性を上品に撮らせたら天下一品で、「女性モデルの撮影はこの人に任せておけば大丈夫」という安心感と安定感の方だった。
当時、デジタルへの移行の過渡期で、ある仕事をお願いしたときに「某社から借りているフラッグシップ機が今手許にある」という話を聞いて「じゃあデジタルで撮りましょう」と提案して撮ってもらった。彼にとってもフルデジタルの初仕事。こちらからPowerBookをスタジオに持って行って、カメラから直接吸い上げてその場で確認しながら撮っていくという、今では当たり前になった撮影方法。「へえ、なるほど!」と彼が感心してくれたのが嬉しかった。それ以降「ヨネヅくん、これどう設定すればいいの?」なんて電話がかかってきて、彼のスタジオまでMac回りの設定をしに出かけたことも度々あった。

「また仕事しましょう!」なんて最後に話したのは何年前だったか。あっという間に月日は経ち、その人はもう会えない人になってしまう。「またきっと会える」そう思っていた人たちが。自分も歳を取ったのだ。

皆、いつかまた会いたいと思っている人がいるなら、会いに行くといいよ。この夏にでも。

コスプレブーストって「あるある」なの?

げんしけん 二代目」という大学のオタクサークルを舞台にしたコミック(アニメ)に 波戸くん という腐男子(オトコなのにBL好き。しかしゲイではないという複雑さw)キャラが登場します。彼は腐女子に混じってBL話をしたいという思いで、大学入学を機に女装をしオタクサークル(現代視覚文化研究会げんしけん)に入部します。女装であることは早々にバレてしまうのですが、彼は女装したことによって自分の「特異な能力」に気がつきます。彼は高校では美術部に在籍しており、もとから絵は上手かったのですが、女装をするとその能力にブーストがかかるのです(上手さ、速さが劇的にアップする。但し描けるのはBLのみw)。(参考画像1参考画像2 :第15巻 Kindle版より)

大好評だったアニメ「SHIROBAKO」に ゴスロリ様 と呼ばれる天才肌のアニメーターが登場します。彼女がいつも身に纏っているのはゴスロリファッション。しかしそれは、昔、仕事で苦闘していたときに自身を守るために纏った鎧であること、当時描いていたキャラが着ていたファッションであることが彼女の口から語られます。
それを聞いた彼女を慕う後輩アニメーターも、同様の逆境を自分が描いているキャラのコスプレをして乗り越えていきます。

波戸くんもゴスロリ様もマンガチックな設定に思えますが、ふと「これってもしかしたら絵描き、物書きの皆さんにとっては『あるある』なんじゃない?」と思えてきました。というのは、最近私はノマド活動と称して少し離れた公園まで自転車で行き、そこで原稿を書いたりしているのですが、時々、異様にすらすら書けるのです。最初は「ノマドはいいね! 仕事捗るし」と思っていたのですが、昨日、ふと気がつきました。
横にロードバイクを駐めた公園のテーブルで、ジャージ+レーパン姿で原稿を書いている。なんだかやけに快調に書ける。書いているのは自転車小説……

「あれ? これってもしかしたらコスプレブーストなんじゃね??」

雨が降ったり他の用事がなければ昼に一時間(20km)ほど走るのは、去年の秋から続いている習慣で、走り終えてから普通の恰好に着替えるのですが、時々、面倒でジャージ+レーパンのまま午後の仕事に取りかかったりします。そういえば、そういうときも仕事が捗るような。だとしたらポイントはノマドじゃなくてある種のコスプレ効果か??

もしホントにそうなら、もっと早く気がつけばよかった!

というわけで、コスプレブーストで続編(をやっと本腰入れて)執筆中です。
でも自分が書いているのが自転車小説でよかった。これが戦国時代ものとかだったら鎧、兜を用意しないとブーストできなかったかも!

追い風ライダー (徳間文庫)

追い風ライダー (徳間文庫)

「追い風ライダー」に登場する場所のストリートビューをまとめました。

「桜の木の下で」
上川乗の分岐
https://goo.gl/maps/2eeMj
県道18号へ
https://goo.gl/maps/88VFf
鶴峠のバス停
https://goo.gl/maps/8j3Ih
西吾野の丁字路
https://goo.gl/maps/NSb3C
国道299号から見える廃校の校舎
https://goo.gl/maps/q5FPQ

「キャットシッター」
柿の木坂の信号
https://goo.gl/maps/TOXkO
駒沢公園
https://goo.gl/maps/7exBl

「旧友の自転車屋
笹目橋
https://goo.gl/maps/2cWv2
大宮運動場
https://goo.gl/maps/rvKE3

「勇気の貯金」
かすみがうら市水族館
https://goo.gl/maps/4gRkE
あのコンビニ
https://goo.gl/maps/6qUXW

さとうきび畑
名護市民会館
https://goo.gl/maps/BkuPB
大浦の共同売店
https://goo.gl/maps/jMULs
高江の共同売店
https://goo.gl/maps/EHkdo
宜野座データセンター
https://goo.gl/maps/LMI7m
雨が降るといろいろと怖いトンネル
https://goo.gl/maps/eqB5E
普久川ダムへの上り口
https://goo.gl/maps/YBMoT
奈良橋さんが逃げたのはこの辺り
https://goo.gl/maps/7TsUQ

沙紀が立っていたのはこの辺りという想定場所もありますが、それはヒミツにしておきます。

「追い風ライダー」Facebookページでは、本に掲載している写真をカラーで公開しています。

「追い風ライダー」が文庫になりました。


追い風ライダー」が文庫になりました。徳間書店さんの徳間文庫から3月6日(金)発売です。
表紙イラストを描いてくださったのはウラモトユウコさん。ウラモトさんはイラストレーターとしてはもちろん、漫画家さんとしても人気のある方です。単行本の安倍吉俊さんとはまた趣の違った、可愛らしい新垣沙紀が生まれました。

文庫化にあたって短編をひとつ、追加で書き下ろししました。内容についてはヒミツですが、単行本の時に書きたかったけれどうまく書けなかったストーリーに再挑戦したものです。正直、今回はうまく書けたと思える作品に仕上がっています。

文庫は単行本より部数を多く刷るというのもありますが、実は今回、自分史上最大の初版部数です。ですので沢山の書店さんに並ぶことと思います。見かけたらぜひ手にとっていただけたら嬉しいです。

続編を出す前に文庫に追い抜かれてしまった今日この頃…… 頑張ります。

追い風ライダー (徳間文庫)

追い風ライダー (徳間文庫)

緑の小鳥

今朝、沼袋の裏通りを歩いていたら道ばたに緑色の小鳥がいるのに気がついた。最初は作り物かと思ったのだけど、しゃがんで見てみるとかすかに動いている。指先で羽をなでても逃げる気配がない。怪我をしているのかと思い手のひらに載せても逃げない。この辺りは猫が沢山いるので放置すればあっという間に捕まってしまうだろう。どうしよう、一旦家に連れて帰るか。
左手に小鳥を載せて右手で覆い隠すようにして「お・も・て・な・し」みたいなポーズで家まで歩いた。ときどき立ち止まって手の中を見ると、意識はあるのだけれど茫然自失みたいな。目は開いているけれど状況は認識してないような。人間で言えば貧血で駅のベンチに座っている人のような。
数分歩いて家の近くまで来るともぞもぞと動き出した。指のすき間から外を見てキョロキョロしている。「あれ? どうしたの? ここはどこ?」と我に返ったような感じ。寒さで固まっていたのが手のひらの体温で暖まって意識を取り戻した? 
家まで戻ってきて、使ってない人形ケースがあるからそこに入れるか、なにか餌も買ってこなければ。雨降ってきたし買いに行くのはちょっと面倒くさいな… と思った瞬間、指のすき間から小鳥が逃げ出して、向かいの家の塀の上にとまった。
「あ、ごめんごめん。面倒なんかじゃないから、暫くウチで休んでいきなよ」
そう思って歩み寄ろうとしたら飛んでいってしまった。
今度はこっちが茫然自失。なんだかとんでもない大失敗をしてしまったような気がして暫く落ち込んだ。「面倒くさい」という気が頭をかすめた瞬間に小鳥は逃げ出した。こちらの気持ちを感じ取ったかのように。
「ご迷惑はおかけできません。失礼します」なのか「あんたなんかの世話にはならないわよ。ぴー」なのか。それとも「寒くて気を失ってましたがもう大丈夫です。お世話になりました。では」なのか。
古今東西、小鳥にまつわる寓話や童話が沢山あるのはこういう理由なのか。手のひらの小鳥が飛んでいく(飛んで行ってしまう)。ただそれだけで、こんなにも複雑で様々な感情がこころのなかにわき起こるとは。飛んでいった小鳥は自由や希望の象徴か、喪失や失敗の象徴か。その人の心象風景の鏡だな、きっと。
ま、怪我をしていたのではなくちゃんと飛べるのならよかった。そう思って自分の気持ちを引っ張り上げた。今日はそのあと日が暮れるまで、小鳥の鳴き声が聞こえるたびに窓から外を眺めて、緑の小鳥の姿を探していた。