ロードレースは我慢比べ?

pedalfar2009-07-12

自分が好きなスポーツ、自分もやる(やっていた)スポーツを観るのは楽しい。今でもシーズン中は時々アルペンスキーのワールドカップ中継を見る。レジャースキー止まりで競技スキーはやらなかったけれど(これは少し後悔している)その後、仕事としてスキーには長く関わった。スキーは今までの人生で僕が最も長く関わったスポーツだ。
GS(大回転)の完璧なターンはスポーツに於いて人間が描き出す「最も美しいシーン」のひとつだと思う。拙著の中でロードレーサーは「人間と機械の最も幸福な妥協点」だと書いた。それに準えるなら、スキーは「人間と自然の最も幸福な妥協点」だと思う。もう何年も滑っていないけれど、ワールドカップの中継でゲレンデを見ると、美しい雪の中をまた滑りたいと思う。

ツールを観ていると(スキーを観るのと同じように)「こんな景色の中を走ってみたい」と思う。ひまわり畑の中、地平線まで続く田園風景の中、走るプロトンは美しい。そして山岳ステージ。空撮の映像を見ると「おー、こんなコースを走ってみたい」と思う。しかしカメラが切り替わり選手達の表情を映し出すとその思いは別の感情に切り替わる。

自分が坂が苦手なせいだろうか。ぎりぎりのところで集団に着いていた選手が遅れ出すと胸が痛くなる。少し開いてしまった集団との間を詰めるために腰を上げてペダルを踏む。一旦は追いついたものの長くは続かない。やがてまた遅れだし差が広がっていく。あーつらいよね。でももういっぱいいっぱい。ついていけないんだよね。

雨が降り出す。選手の背中がだんだん汚れてくる。やがて全身ずぶ濡れに。前走者がはね上げた水が口の中に入る。砂混じりで口の中がじゃりじゃりする。もう、なんでこんなずぶ濡れになって走っているんだろう。訳がわからない。

落車。あっと思った次の瞬間には道路に転がっている。直後は一瞬呆然となる。アドレナリンが出ているせいか痛みは感じない。でも破れたジャージとレーサーパンツににじむ血を見て、その視覚情報から痛くなってくる。ああ、その擦過傷、痛くて熱くて夜眠れないんだよね。

長い長いダウンヒル。選手達の下る速度は「気持ちのいい下り」という速度域を超えている。もうギリギリ。一瞬のミスでがけの下へ。僅かにタイヤが滑っただけで心臓がぎゅっと締め付けられる。もし今パンクしたら落車せずに止まれるだろうか。まさかクイックが緩んでいたりしないよね。

暑い。もう本当に暑い。頭がクラクラしてくる。もう走るのは止めて木陰で一休みしようよ。ボトルの中身は生温い。冷たい飲み物が飲みたい。ヘルメットを脱ぎたい。

逃げる。ひたすらペダルを踏む。もう脚は棒のよう。じりじりと速度が落ちていく。諦めてしまえば楽になれるのに。

なんでだろう。ロードレースを見ているとつらいことばかり思い浮かぶ。僕のごく僅かなレース経験では選手達の心象風景は想像の域を出ないけれど、きつい条件の中で走り続けることのつらさはちょっとは想像できる。ロードレースを観ることは選手のつらさを目撃することなのかも。最後までそのつらさを我慢した選手が勝つスポーツ。ロードレースって我慢比べ?
自転車で走ることは大好きだ。でもよく覚えているシーンはつらかったことのほうが多いような。「自転車のなにが楽しいんですか?」と人に(乗らない人に)聞かれると、あれこれ自転車の楽しさを説明しながら、心の中で(でも結構しんどいんですけどね)とつぶやいている。

tumblr経由で知ったこのサイト。選手達の表情を見ながらそんなことを思った。


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