ロードバイクのメンテナンス:最初に買うケミカル用品はこれ

世の中には何かを手に入れたら(特にメカもの)「バラしてみないと気が済まない」という人がいる。拙著「ロングライドに出かけよう」で紹介した「趣味の道具として自宅に旋盤を持っている」マツムラさん(最近はブルベ界隈では「旋盤の人」としてプチ有名人となってしまったらしいw)などはその最たる人で、ロードバイクのパーツでいけば、カンパのエルゴレバーの完全バラシなどあたりまえ(左の画像はマツムラさん提供)。彼のようにそこからさらに魔道に踏み入れる人はアルミ削り出しでパーツを作ってしまったり、グリスになにやら「秘密の粉」を混ぜたりと、留まることをしらない。

「とりあえずちゃんと動いているならば箱の中身は気にしない」という人と「中身がどうなっているのか箱の中を自分の目で確認しないと落ち着かない」という人に、世の中を大きく二つに分けるなら(ま、前者が普通の感覚だと思うけど)僕も後者に入るだろう。
たとえばノートPCを買ったなら、とりあえず表から見えるビスは全部外し、上面ないし底面を外して基盤を見るのは僕の毎度の儀式のようなものだ。基盤を見たからといって、そこから僕に出来るのはメモリの増設やHDDの交換程度だけど、それでも整然とぎっしりパーツが配置された基盤を眺めるのは楽しい。特に僕は排熱ファンが好きで、極小のモーターを使った小さなファンを見ると「ああ、こんな小さいのに頑張って熱を排出してくれているのか」と思って愛おしい(ヘンかな)。「○○たん」という萌えキャラ擬人化でいけば「排熱たん」かw(誰かキャラ化してください)。
ロードバイクのパーツではリヤブレーキが好きだ。フレームの斜め後ろから見たリヤブレーキはカッコいい(確か「茄子」シリーズの高坂希太郎監督も同じようなことを言っていた)ブレーキアーチの緩やかなカーブは美しい。シマノだと現行モデルより一世代前のブレーキのほうがカーブが滑らかで好きだ。ブレーキレバーの引きに合わせてアーチが動く様を時々眺める。こんな小さな金属パーツの塊が、時には60km/h、70km/h、或いはもっと速い速度から自分の乗るロードバイクを確実に減速させ停めてくれる。すごいと思う。これもなんだかやっぱり愛おしい。

ロードバイクのメンテナンス本には「メンテの基本はまずきれいにすること」とよく書かれている。走った後にウエスで埃や泥をよく拭き取る。そうするとちょっとした傷やガタつきにも気がつくよ、という意味だ。それも大事なことだけど、僕はその前にそれぞれのパーツがどんなふうに動くのか一度よく見てみることをオススメする。ブレーキレバーを引く。ワイヤーが引かれブレーキキャリパーが動く。どういうふうにそれが動くのかよく観察してみるといい。前後のディレイラーならば、メンテナンススタンド(安いのでいい)を使ってペダルを手で回しながらシフトレバーを動かしてみる。ディレイラーがどう動き、それによってチェーンがどうやってスプロケのギヤやチェーンリングの間を移動するのかをよく見てみる。どこがどう動くのかをちゃんと理解して知っていれば、メンテナンスでどこに注油すればいいのかがわかる。むやみやたらとスプレーを吹いたり、肝心なところに注油し忘れたりすることもないだろう。それにちゃんとセッティングされた状態を見て記憶していれば不具合が出たときに「あ、ここがすこし曲がっている」「ここが緩んでいる」とかもわかる。そもそも、ちゃんとした状態を知らなければ不具合が出ても何がおかしくなったのかわからない。

一冊くらいはメンテナンス解説本も買うといいと思う。後にも先にも僕が買ったメンテナンス本はエイ出版の「ロードバイクメンテナンス」一冊だ。これ以外にもメンテナンス本はあるし、ロードバイク専門の本ならばどの本でも網羅的に解説されていると思う。どちらにしても立ち読みして自分がわかりやすいと思ったものを買えばいい。但し、本ではパーツ類が「どのように動くのか」ということはわかりにくい。だからこそ、自分で動かしてよく観察するのがいい。最近はメンテナンス解説のDVDもあるようだ。ファンライドのサイトには解説用のムービーもある。


メンテナンス用のケミカルはいろいろな種類がある。メンテ本ではパーツ別、用途別に10種類くらい紹介されていたりして、最初はどれを買えばいいのかとんとわからないと思う。僕のオススメする「まず最初に買う一本」はワコーズのメンテルーブだ。

CRC-5-56(KUREの556)は自転車のメンテに使えますか?」というのはビギナー定番の質問で(どこの家にもあるっていうことなんだろうな)呉工業もWEBサイトで「自転車をはじめ家庭にある機会や金属製品のメンテナンスに」と謳っているけれど、実際これは自転車的にはほとんど役に立たない。5-56は揮発性が高く粘度が低すぎるのだ。家のドアの蝶番がきしむとか、鍵が回りにくくなったとか、そんな用途には使えても、一日走れば数百回は動かすロードバイクの可動部分に使うには耐久性が全く足りない。早い話が粘度が低いのですぐに落ちて(はがれて)しまうのだ。それに粘度が低い(サラサラしている)がゆえになまじ浸透性がいいので、迂闊な場所に吹くと本来その場所に定着させておきたいグリスなど高粘度のものまで一緒に流してしまう。チェーンのサビ落としには使えるかもしれないけれど、潤滑油としてはほとんど機能しない。
メンテルーブはグリスと潤滑オイルの中間の粘度を持つオイルで、非常に汎用性が高い。とりあえずメンテナンス用にケミカルを一本買うならこれがいいと思う。ディレイラーやブレーキなどの可動部分に加えて、僕はロングライド時のチェーンオイルとしても使う。耐久性は高く雨にも強い。デメリットは粘度が高いので埃がつきやすいこと。埃が気になる=まめにメンテナンスする人はドライ系とよばれるケミカル類にいずれスイッチすればいい。ケミカル類はテフロン配合やらチタン配合やら凝り出すといろいろなものがある。先に書いたようにグリスに「このヒミツの粉を混ぜると回転抵抗が・・・」といったケミカルの暗黒面に落ちる人もいるw もし余裕があればケーブル回りやSTIレバー(カンパならエルゴレバー)などのためにもう少し粘度の低いオイルもあるといい。ワコーズならばラスペネなど。

あと必要なのはパーツの埃や汚れを落とすエアゾール式のパーツクリーナー(ディグリーザー)。スーパージャンボとかフィニッシュラインならばスピードクリーンなど。ホームセンターやカーショップなどではもっと安い類似品もある。ものによっては塗装面への攻撃性が極端に強いものもあるらしいのでよく調べて買ってください。

ヘッドパーツ回りやBB回り、ホイールのハブなどにはグリスを使う。でもこの辺りはシールド式(密封式)のものが多いし、微妙な箇所なので最初はショップにお任せしよう。自分で出来る範囲だと一番使う機会があるのはペダルとクランクの接合部だろう。ロードバイクを購入して、しばらくして「あれ、なんかキシキシ音がする」という場合はペダルとクランクの接合部から音が出ている場合が多い。一度ペダルを外してクリーナーできれいにしたあとでグリスを塗って締め込み直せば大抵は治まる(グリスを塗らずにパーツを組んでしまう雑なショップもあると聞く)。グリスはチューブ式やガン式のものもあるけれど、僕はシマノデュラグリスを使っている。実勢価格1,000円以下で買える「デュラエース」だ。ネジ式の接合部を外したらこれを塗って締め直す。塗るときは綿棒を使っている。これをちゃんとやれば音鳴りもしなくなるしネジの固着も防げる。他のパーツの接合部も同じだ。

誰もが「バラしてみないと気が済まない」とは思わないし、メンテに時間を取られるくらいなら、それはショップにお任せして、できるだけ自分は走りたいというのもアリだと思う。ただ、ロードバイクのメカはシンプルな仕組みだから、やろうと思えば自分で大抵のことはできる。寒くなってきて乗る回数が少し減ってしまったら、たまには自分のバイクをきれいにして、それぞれのパーツをよく眺めてみるのもいいと思う。そして、もしブレーキやディレイラーの動きが愛おしく感じられたなら・・・あなたも僕サイドの仲間入りだw


・・・追記 091223 2:00・・・
ブクマに「KUREはダメなの?」というコメントがあったので補足。5-56がロードバイクのメンテにはむかないということだけで、KUREの製品全般がNGなわけじゃないです。チェーンルブは結構使っている人も多いみたい。あとメーカーで言うとホーザンとかレスポとかもある。


*Cycling-EXさんにもケミカルに関する記事がありますのでそちらもどうぞ。
*Cycling-EXさんでは来年「手ぶらで参加できるチューブ交換講座」と銘うって、定期的にチューブ交換・パンク修理の講座を開いていくそうです。第一回は定員一杯になってしまいましたが、参加ご希望の方はTwitterでフォローすると次回の予定をいち早く知ることができるでしょう。@cyclingex


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