冬の京都へ行ってきた

京都へ行ってきた。前から予定していた旅行ではなく、月曜(18日)にカミさんが京都で用事があるというのでそれのお供。土曜日出発で浜名湖まで自走+輪行と思っていたのだけど寒さに負けたw 日曜の昼頃、新幹線で行って少しブラブラして、夜は湯豆腐か水炊き、翌日はカミさんの用事の時間までつきあってその後帰るという予定だったのだけど、なんだか居心地が良く結局二泊してしまった。居心地が良かったというのは泊まった宿のこと。

ある方に紹介してもらったその宿はその方のお嬢さんが女将。事前にどんな宿か調べようと思ったのだけど、ネット上に全く情報がない。送られてきたFAXの地図の住所は京都特有の「○○上ル」というやつで、それで検索しても出てこない。Googleマップで調べても出てこない。京都の人ならこの住所表記でもわかるのだろうけど。地図を頼りに辿り着くと、旧い京都の町屋そのものの細い路地の突き当たりにその宿はあった。あー、これがいわゆる京都の「一見さんお断り」の世界? 着物姿で出迎えてくれた美しい女性が女将だった。紹介してくださった方が京都の人ではないので当然彼女も京都出身ではないのだけれど、雰囲気は完璧に(勝手に僕がイメージするところの)京おんなである。
建物自体は多少大きめの民家程度。ごく普通の木造家屋。一部改修したそうだけど建物自体は150年以上前に建ったものらしい。「改修前の部屋には新撰組の方がつけた柱の刀傷があって…」彼女がさらりと話すとそんな話も、まるで「つい先日のこと」のように聞こえる。今の旅館として創業してから60年だという。「京都では100年超えていないと『古くからやっている』とはなかなか言ってもらえないんですよ」と、これまたさらりと言う。なんというか、迂闊にジャージ+レーパンで来なくてよかったかも(笑)ま、そんな客でも暖かくもてなしてくれたと思うけど。

部屋は鴨川に面した和室(って当たり前か)。サッシではなく木枠の硝子窓に木の雨戸。エアコンはなく昔実家にあったようなガスストーブ。簡素というか、目隠ししてこの部屋に連れてこられたら只の旧い普通の和室だと思っただろうか。でもね、やっぱりなにかが違うのだ。
一言でいえば「風情」というものなんだろう。京都という土地で長く商いをする。その商いを大切に続けていく人たちがそこにいる。客もそういったなにかを大事にする。器(建物も含めた諸々のもの)も、むやみやたらと新しくしたり華美にしない。それらがすべて組み合わさって「風情」という無形の価値観が生まれる。そんな感じだろうか。

ちょっと意地悪な見方をすれば「風情」という無形の価値感を手に入れてしまえば無敵w、古びた建物も簡素な部屋もすべて「風情がある」。この無形の価値感はおいそれと手に入らない。だから普通の宿は設備にお金をかけ、デザインをする。どこかのレストランのシェフを引っ張ってくる。そうやってわかりやすい価値を得ようとする。

部屋の写真も撮ったのだけどアップしないでおく。写真で見ると本当にごく普通の和室にしか見えない。あの感じは写真には写らない。カミさんは「外国人観光客はこういう宿に泊まったら喜んじゃうだろうな」と言っていたけど、多分それはちょっと違う。これは日本人でなければ(本質的な部分は)感じ取れないのではないかと思うのだ。

もちろん「風情がある」からといってそれで「すべてOKだよね」というわけではない。部屋を出て出かけようとすると気配でさっと宿の人が出てくる(従業員の方も皆素敵な女性なのだ)。出かけて帰ってくる夕刻には女将が着物に着替えて出迎えてくれる。すぐに出てくるお茶がびっくりするほどおいしい。一緒に出されるお茶菓子もおいしい。「どこを回られたんですか?」とおしゃべり。京都の街のことなど詳しく聞きたいことは彼女も饒舌になるけれど、こちらが話を切り上げようと思ったタイミングを外さずさっと話を切り上げる。ねえねえ、なんでわかるの?こういうことが組み合わさって「居心地がいい」のだろうなぁ。「おもてなし感覚の店」などとよく言うけれど、おもてなし感覚じゃなくてホントの「おもてなし」。

この手の宿は「とんでもなく高い」と思われているかもしれないけれど普通の金銭感覚を逸脱したような料金ではない。東京で普通のホテル(ビジネス系ではない)に泊まる程度だ。一般的な宿泊スタイルで言うならば一泊朝食付。夕食は近隣で勝手に食べてもいいし、部屋で食事することも可能だ。好みと予算を伝えておけばそのリクエストに合った店に仕出しをお願いしておいてくれる(多分こっちのほうが本来のカタチなんだろう)。一泊目は紹介して貰った店で食事し(日本料理店だけどビーフコロッケとローストビーフがおいしかった)、二泊目はカミさんは夜まで仕事だったので、こちらも部屋で仕事しながら(無粋だけどさ)簡単な食事をとってもらって部屋食した。近くの割烹から炊き込みご飯をとってもらったのだけど、これがまたうまい。

観光シーズンではないせいかどこを歩いてもそれほど混んでなく、花見小路建仁寺建仁寺風神・雷神)、知恩院三十三間堂などを歩いて見て回った。あ、あとカミさんオススメのイノダコーヒ(コーヒーと伸ばさない)。前から食べてみたかった三条支店のハムトーストを食べた。厚切りのハムがおいしい(本店のビーフカツサンドは次回のお楽しみに)。コーヒーは酸味が強いオリジナルブレンド。酸味の強いのは苦手だったのだけど、ミルクと砂糖を適度に入れるとおいしいということを知った。
三条店の丸いカウンター席にはお昼前からおやじたちが新聞を読みながらのんびりコーヒーを飲んでいる。近隣の旦那衆なのかなぁ。うちの近所の喫茶店でも同じように昼前からおっさんが新聞を読んでいるけれどだいぶ雰囲気は違うw。
街中(繁華街と住宅街の境目辺り)を歩いているとランチで2,000円〜3,000円くらいとる小さなフランス料理屋が沢山あるのに気がつく。京都だって日本なのだから、京都だけ景気がいいとは思えないし、それどころか廃業するお店も多いという。町屋を改装したレストランもよく見かけた(このレストラン際コーポレーションがやっている)。京都のジュンク堂をのぞいたら拙著はエンゾと今中大介に挟まれていた。

また時期を見て訪れたい。こんな宿に泊まって原稿を書く大作家センセイのようになりたいものだ、と深夜のマクドナルドでコーヒーを飲みながら思う。

*追記
京都で得た教訓:お寺回りをするならブーツはやめようw 今回ワークブーツの脱ぎ履きで難儀した。


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