Tumblr(タンブラー)のreblogがたぐり寄せるプチ覚醒感

前回の続き。例によって左の画像の説明はのちほど。
先日のiPadの発表、巷の反応はどんなものかと思い、あちこちのブログを読んだ。大絶賛もあれば全く評価しない人もいるという「反応真っ二つ」なことは皆さんご存じのとおり。ある人のブログを読んでいると「あれがないからこれができない」「今、あれがないのは考えられない」「ただの図体のでかいiPod touch」という。読んでいるうちに「ああ、そういえばこの人はiPhoneに対してもTumblrに対しても否定的だったなぁ」と思い出した。否定から入る人は頭がいい人が多い。さらに言うならば、頭がいいということに自覚的な人が多い(そういう人の書く文章には特徴があるのですぐにわかる)。まず欠点を指摘することで「頭のいいこと」を無意識に証明したいのだろうか。
iPadTumblrも自分の中に(中というのは生活とか感性とかスタイルとか、そんな言葉を当てはめてもらえばいい)「ハマる場所」が見つからない人にとっては、中途半端で使いにくいものに過ぎないのだと思う。しかし自分に使い道が見つからなかったとしても「だからダメなもの」という訳じゃなかろう。Tumblerは(多分iPadも)「その機能で出来ること」ではなく「こういうふうに使いたい」がイメージできるかどうかなのだと思う。
TumblrユーザーにはiPhonユーザーが多いんじゃなかろうか。もちろん「そっち寄り」の人が多いからというのもあるだろうけど、iPhoneにはtumblr gearという超絶快適アプリがある。僕もダッシュボードの閲覧とreblogはほとんどtumblr gearでやっている。PCのブラウザでやるよりも遙かに快適で速い。作者の方には感謝感謝である。で、tumblr gearのユーザーはiPadでこれを使うのを楽しみにしているはずだ。ほらね、Flashがあろうがなかろうが、USBがあろうがなかろうが「こう使いたい」という人がすでにここにいる。

単に機能という面から見ればTumblrは中途半端だと思う。少し使ってみれば情報は集まるけれどうまく整理できないことに皆気がつく。その上で丁寧にタグを打って検索しやすいようにして使う人もいる。ハナから検索はあきらめてダッシュボードに流れてくる記事や写真を楽しむという使い方もある。プラグインスクリプトで使いやすくする。CSSをいじくって見やすいようにする。ただただダッシュボードの流れに身を任せる。どういう使い方だっていいと思うのだ。むやみやたらと機能を詰め込まずに、ユーザーに使い方を委ねるのは昨今の新しいWEBサービスに共通していることかも。

Tech系やHack系のサイトでTumblerを紹介した記事では「効率的に情報を集めることができる」ということをまず必ず書く。そしてもう少し使い込むと「自分はこういう嗜好だったのかという発見がある」とか「自分の何かを再発見できる」とか書かれている。でも実際にそこまでの感覚はある程度は使い込まないと(端的に言えば「ハマらないと」)短期的には起こらないのではないか。自分のTumblrを見返してみて「自分好みのものが沢山たまった」と感じるだけのことではないか。しかし一線を踏み越えると「ある種の覚醒感」は確かにある。


わかりやすい例をあげる。僕は猫が好きだ。「Tumblrは女の子と猫の写真ばっかり」と時々言われるほど(それはそういう人ばかりフォローしているからで、テキストだけの人だって沢山いる。そっちのほうが本流かも)それくらい猫の写真は流れてくる。一時、そういう猫タンブリストを何人もフォローしていたので、僕のダッシュボードは猫だらけだった。そんな猫の写真をreblogしているうちに子猫の写真を自分がほとんどreblogしていないことに気がついた。子猫が嫌いなわけじゃない(いや、むしろ好き)。自己分析すると、どうやら「子猫はどう撮ってもかわいいから写真としてはおもしろくない」という感覚のようだ。どちらかといえば成猫が見せる愛嬌のほうが好きだということに気がついた。やがて僕はこの画像に出会う。猫と暮らしたことがある人ならご存じのことと思うけど、猫の跳躍力と空中での姿勢制御能力はすごい。そしてこの決定的画像に出会う。意を決したようにとんでもない距離を飛ぶ姿を見て「あ、自分が猫が好きだっていうことはそういうことだったのか」と気がついた。可愛い猫たちが持つ驚異的身体能力、猫たちが思いがけない瞬間に垣間見せる野生とのコントラストがあるから、その可愛さが好きだったのだと気がついた。これは多分、猫の写真集を見たり、猫画像サイトで画像を沢山見たとしても自覚できなかったと思う。そう、Tumblrを使うことで気がついたのは浴びるように大量に見た猫の姿とreblogという機能のおかげだ。「Tumblrは質より量」「reblogが肝だ」ということは、Tumblrを使い込んだ人の多くが言う。これは一線を超えて使い込めば極めて短期間に、普通の(どの程度が普通か定義しにくいが)使い方なら緩やかに起こることなのだと思う。

たとえば絵が好きな人で「自分はやはり印象派の絵が一番好きだ」という人がいたならば、その人がそこに至るには美術書を見たり、美術館に足を運んだり、その画家に関する本を読んだり、様々なプロセスを経て「印象派、そしてやっぱりモネが好き」という自覚に辿り着くのだと思う。しかしTumblrではそのプロセスがものすごいスピードで行われる。「猫の写真と印象派を比べるな」いや、もちろんその深みは違う。実際に美術館へ足を運び見る絵とディスプレイ上で次々と見る画像。その体験は比較にならないと思う。しかしそんなプチ覚醒感が次々と起こるのだ。単に沢山の写真や絵画を見たというだけではこの感覚に辿り着くには時間がかかるだろう。
あること(ものでもいい)に興味を持つ。同じベクトルの人を何人かフォローしてみる。同じベクトルと言っても自分と全く同じ感覚の人はそうそういない。一定の幅の中で微妙に違った感覚のものがダッシュボードに流れてくる。その微妙な違いが逆に自分のフォーカスを調整して鮮明なものにしてくれる。そんな感覚だ。やはりポイントは「reblogする」というアクションにある。「これをreblogした」という実際のアクションと感覚がプチ覚醒感をたぐり寄せていく。そしてそのプチ覚醒感の積み重なりが何か大きな覚醒につながる予感が僕にはするのだ。

同じベクトルの中で自分が「これだ」と思っていたものとは微妙に違ったものを次々と見ているうちに逆にベクトルの幅が広がることもある。わかりやすい例をあげよう。僕の実例はいつも下世話でわかりやすいw。前回のエントリーで書いた「リンゴ」のことだ。最初に流れてきた「リンゴ」はこれ。カラフルな花柄のタイツ脚。「あ、かわいいな」と感じたのだ。時々ファッション誌やそっち系のサイトで見かけるけれど、なかなか実際に街で見かけることはない(中野界隈ではね)。そんな花柄タイツ脚を探してポストしているうちに「リンゴじゃなくて梨(=柄物)だけどどう?」「リンゴじゃないけどオレンジ(=縞々)でもどうぞ」「イチゴ(=黒タイツ)もあるよ」といつのまにかいろいろな脚が流れてくるようになった(イメージしていたのはこんなのとかこんな感じの写真だったんですけどね)。レギンスはこの冬、日本でも流行りのようだけど、自転車乗り的には自分が冬場に履く長タイツみたいでイマイチかっこいいとは思えなかった。でもレギンス画像も沢山流れてくるうちに「これも格好いいし可愛いな」と思えてきた。ま、日本人体型を遙かに超越したアチラの人たち(脚長すぎ!)の画像を見ているからかもしれないけど。大量の画像を見ているうちに、お陰で俄にファッションの流行にも詳しくなってしまった。
そんなこんなで、いつのまにか「これもありだな」と好みのベクトルが広がり、ダッシュボードはフルーツ度(=脚フェチ度)が上がっていった(ま、元来僕は「おっぱいより太もも」の人なので、流れてきたものは遠慮無くreblogさせていただきましたw)。大量にポストしていた時にRSSリーダーに入れたファッション系のフィードにも毎日新しい画像が流れてくるので、以前ほどの頻度ではないけれどポストもしている。おかげで今では僕のTumblrは「自転車と猫と脚のTumblr」になってしまったけれど、そんな思わぬ展開もTumblrのおもしろさだと思う(ということにしておこう)。嗜好の合う方は僕のTumblrを掘ってみてください。

「Tumbler や Twitter を使ってみればわかる。『自分がフォローしているのは自分が興味のある情報をつぶやいている人だけでしょ?』という意見もあるかもしれないが、人は思ったより雑多なポストをするものだ。」というakirasekさんのこのQuoteに対するコメントはまさに秀逸だ。フォーカスしながらもノイズもあるし思わぬ出会いや発見もある。フォローつながりの人との不思議な同期感も新鮮な感覚だ。
僕がreblogしたリンゴはnemoiさんという方から流れてきたものだ。nemoiさんは「何でもアリ」の方だけど、クルマとか飛行機とかメカ物が多い印象で、あまり色っぽいものは流してこない。そんなnamoiさんからリンゴが流れてきたのが象徴的だ。nemoiさんにリンゴを流したのはjaconyさんという方。jaconyさんからは時々マウスを持つ手が思わず止まってしまうような美しい画像が流れてくる。jaconyさんはTwitterでもフォロワー同士なので何度かTumblrについてTwitter上でやりとりしたことがある。元ポストのsabinoさんという方はチリの大学生でアマチュアカメラマンの方。彼がポストする自分で撮った写真や彼が属するflickr Groupの写真も美しい。ガールフレンドもキュートだし。あとhanageさんという方からは時々「おまえは俺か!」と突っ込んでしまいそうになるほど僕の感覚とシンクロしたものが流れてくる。日によっては彼が流してきたものすべてreblogしたくなることさえある。他には大量の二次元画像が流れてくるので(いや、苦手ってわけじゃないんですけど)悩んでしまうけれど、記事のQuoteが冴えているのでフォローをやめるにやめられない人もいる。しかしそんな方も含めて、フォローさせてもらっている方々には感謝してる。reblogしたくなるようなQuoteや画像をありがとうございます(^^

そして、この最初のリンゴ。大元はshan shanさんという大阪在住の中国人クラフト作家の方がflickrにアップしたものだ。shan shanさんはビンテージ古着のオンラインショップもやっており、自分の作品とヴィンテージウェアを組み合わせたコーディネートの写真をLOOKBOOKというファッション投稿サイトにも多数投稿している。こちらに彼女のインタビューがある。
このLOOKBOOKというサイトはTumblrでも投稿された写真を流していて、投稿された様々なコーディネートがどれも大量にreblogされている。こういうサイトが平行して使えばTumblrもビジネス的、マーケティング的に使える。この辺りがTumblrの企業向け活用の突破口になるのかも。

次のエントリーではTumblrを「情報収集」ではなく個人・企業とも「情報発信(=マーケティング的)」の側に立って使う方法を少し考えてみたい。そして「TumblrTwitterを活用すれば一人でも自転車情報サイトを運営できる」と確信し立ち上げられたCyclingEXさんのことにも触れてみたい(やっとこのネタに辿り着いた!)。
それとTumblrユーザーなら一度は考えたことがあると思う「Tumblrってどうやってお金を稼ぐつもりなの?」ということも併せて予想してみよう。

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