自転車的出来事その1:東京→糸魚川ファストランと帰りの電車の中で思ったこと

相変わらず本業多忙ながら、間を縫って先々週末は恒例の「東京→糸魚川ファストラン」を走り、翌週は自宅の引っ越しという、慌ただしい5月が終わった。まだ段ボールに囲まれながらこれを書いている。このブログも随分ご無沙汰してしまったので、自転車的出来事をまとめてご報告。今日明日で連投します。まずは糸魚川のこと。左の画像は韮崎チェックポイントの「まるの屋」。何とリニューアルしてぴかぴか!

毎年、ゴールした後には「もう来年はいいや」と思うのだけど、なぜか翌年になるとまたエントリーしてしまう不思議なイベント。速く走るのならばそれなりにきついけれど、マイペースで走るなら距離も難易度も僕にとってほどよいコースだからなのかも。ロードに乗り始めて最初に「ぜひ走ってみたい」と意識したイベントなので、それなりの思い入れもある。

今年はなんだかとても楽しかった。過去4回走っているけれど、局地的集中豪雨で道路が冠水して屋根付きのバス停で1時間以上足止めを食ったり、韮崎を過ぎた辺りから残り200kmずっと向かい風だったり、なぜかこの距離で股ズレとアキレス腱を痛めて難儀したり、落車した人のレスキューで救急車を呼んで、その事後処理をしてゴールしたらどんじりだったりとかw 「あーあの年はあれで大変だった」と思い出すほど、なんだかんだでいろいろ出来事があるイベントなのだけど、今年は僕個人としてはあっけないほど何もなかった(PedalFar!チームとしては2名、クルマとのアクシデントでリタイヤとなってしまったのだが)。
スタート時点(僕は3時台という早いスタート)で半袖でちょっと肌寒い程度で、スタート直後に大垂水峠を登ればすぐにちょうどいい体感温度。晴天orやや薄曇りの天候で日中も程よい感じ。特筆すべきは向かい風がまったく吹かなかったこと。これは何度もこのイベントを走っている人ならわかると思うけど、驚くべきことだ。なんと区間によっては追い風も吹いた。本州を突っ切って300km移動すれば、全行程で好条件というわけにはいかないとずっと思っていたけど、こういう年もあるんだなぁ。おかげでホントにあっけないほど何事もなく走る事ができた。
5月としてはやや湿度が高かったせいか、僕の大好きな木崎湖や青木湖あたりの景色が例年ほどクリアな感じじゃなかったけれど、それでも毎年、この辺りの景色を眺めながら走るのは楽しい。このイベントの参加を続けているのはこれも大きな理由のひとつだ。信州を自転車で走ることは本当に楽しい。
笹子トンネルを抜けて甲府の街へ一気に下り、市街地を抜けていくと、もうその時点で進行方向に広がる甲斐の山々の景色が素晴らしい。韮崎から富士見峠を越えてさらに進めば諏訪湖の穏やかな湖面が目の前に広がる。さらに松本を抜ければこのコースのハイライト、信州の山々と仁科三湖が迎えてくれる。しかも今年は雨も風もなし。ゴールしたあとに「ぜひ来年も走ろう」と思ったのは初めてかもw
まあ、ファストランという名のイベントをマイペースで走っているのは趣旨違いなのだけど、ここ最近、全く走っていなかったので実は結構不安だったのだ。「リタイヤ、脚きりもやむなし」と思っていたので完走できてホッとしたのも事実。完走タイム15時間台後半というのはシリアスに走っている人に比べたら箸にも棒にもかからないタイムだけれど、今の僕には上出来だ。
ゴールした後は例によって糸魚川の街の焼肉屋へ。「このメニューに載っている肉、全部持ってきて」というオーダーに「あんたたち、去年も来たね」とお店の人が覚えていた(うひゃひゃw)この焼肉屋でのくだりはアメリカから帰国して2年振りにこのイベントを走った「落ち武者」佐藤さんのブログがおもしろい。当事者ながら爆笑しましたw

翌日はうって変わって暴風で信越本線の急行がすべて運休。この風が一日早かったら死んでたなと思いつつ、各駅停車で越後湯沢まで行って新幹線に乗り換えて帰京。東京駅から自走で帰ろうかと思ったほど疲労も少なかった。

帰りの道程、各駅停車でのんびり走る列車の中で、あるチームのことを考えていた。
それはチームアスペンの皆さんのこと。チームアスペンは小平にあるレストラン(追記:喫茶店でした)を中心として自転車乗りやアウトドア好きの皆さんが集まってできたチームだと聞いている(違っていたらすみません)。日曜朝に行われる表彰式前にアスペンさんが差し入れてくれる大量のアイスクリームは多くの参加者が楽しみにしている。イベント中も独自のエイドステーションを要所要所に設けてくれて、チーム員だけでなく全参加者にドリンクを提供してくれたり、このイベントでのチームアスペンさんの存在感は大きい。もちろんそういったサポート面だけではなく、このイベントを走る多くのチーム員の方の走り方が印象深い。以前から思っていたことだけど、チームアスペンの皆さんは走り方が本当にきれいだ。フォームやペダリングが、という話ではない。一緒に同じコースを走っていて走り方がとても気持ちいいのだ。たとえば僕はこのイベントでは多くの参加者に追い抜かれる。昨年、今年と3時台のスタートでゴールは18時台だから、コース上で多分300人くらいに追い抜かれている。このイベント中に追い抜かれることについて僕は極めて経験豊富だ(自慢にならんw)。
列車に追い抜かれるとき、チームによっては「この場所でこのタイミングで抜くのは危ないだろう」という追い抜きをするチームもある。レースでもないのに被せるように強引に前に入る人もいる。こちらが信号待ちをしている横をすり抜けて左折していくチームもある。しかしチームアスペンさんにはそういったことがない。市街地では安全なタイミングと場所で声をかけながら抜いていくし、ハンドサインもきっちり出す。単独で走っている人も僕を追い抜くときに「頑張って」「頑張りましょう」と一声かけてくれる。無言で横スレスレを追い抜いていく人も多いのだ(僕自身もこれは反省点だ)。
(余談だが、最近「本読みました〜」と追い抜くときに声をかけてくれる人もいる。しかし声をかけてくれた人はあっという間に先に走り去ってしまう。いつも追い抜かれるタイミングでそう声をかけられる情けなさは自転車本の著者的にはどうよ、と思うのだがw)
そんな沢山の追い抜かれシーンのなかで、チームアスペンさんの走り方は強い印象を僕に残している。最近はレースもイベントもご無沙汰なので、そういった場所でチームアスペンさんが回りからどう見られているのか僕は知らないし、個人的に存じ上げている人もいない。たまに奥多摩方面などでジャージを見かける程度だ。だからもしかしたら僕が抱いた印象とは違う印象をお持ちの方もいるのかもしれない。でも年に一度、300kmという距離と10時間以上の時間を同じコース上で共有する中で、僕は彼らに信頼感を抱くようになった。あのジャージを見かけると「ああ、素敵なチームだな」と思う。
もちろん、同じようにきっちりと走るチーム、僕が尊敬するチームは他にもある。ここで特にチームアスペンさんを取り上げたのは、これが何かを示唆しているのではないかと思ったからだ。

「東京→糸魚川ファストランを走る多くのチームの中のチームアスペンさん」という視点から、もう一段上の視点でこれを考えてみる。「多くの自転車乗りの中でロードバイクに乗る僕ら」という視点だ。ロードバイクがブームと言われ街中でもロードで走る人を沢山見かけるようになった。しかしそれでも自転車に乗る人全体から見ればまだまだ少数派でありマイノリティだ。しかしマイノリティといっても隅っこで小さくなって目立たないようにしているわけじゃない。ヘルメットを被りカラフルなジャージを着て車道を走るロード乗りは路上でとても目立つ存在だ。
ロードバイクに関して予備知識を持たない、僕がロード乗りだとも知らない人から、こう言われたことがある。

「ヘルメット被って速そうな自転車に乗っている人は信号守るし結構ちゃんとしているんだけどね」

「おいおい、それはない」と突っ込む人もいるかもしれないけれど、僕がそう言われたのは事実だ。「へえ、そうですか」と応えた僕に彼はこう言葉を続けた。「目立つからさ、印象に残るんだよね」
少なくとも彼が自分の行動範囲の中で見かけた「ヘルメットを被って速そうな自転車に乗っている人」はちゃんと交通ルールを守り、それは彼の印象に残ったわけだ。ああ、そうだよね、と僕は思う。
ロードバイク乗りは目立つ。だから僕らがちょっと頑張れば、まだマイノリティで、かつ目立つ存在であるがゆえに、世の中の「ロード乗りの印象」を変えていけるのではないかと思うのだ。東京→糸魚川ファストランの数多くの参加者・参加チームの中でチームアスペンさんが印象に残るように。

「自分はちゃんと走っているけど一部の傍若無人な走りをする輩のせいで台無しだ」という意見もある。確かにそれはある。でも追いかけていってつかまえて説教する?交差点に立ち、信号無視をする輩に注意する?それはなかなか出来る事じゃない(時々、信号無視の自転車の後ろ姿に「信号守れ」と怒鳴ったりするけれど)。僕らが一番簡単に出来ることは、自分が目立つということを自覚し、自分がちゃんと走る事だ。ロード乗りは自分が目立つということにもっと自覚的であるべきだと強く思う。
すべての自転車乗りの意識を変えていくことは容易な事じゃない。しかも何かアクシデントがあればマイノリティは非を押しつけられがちだ。マスコミのロードバイクに関する報道姿勢を見ればそれは明らかだ。しかしそれを嘆いていても始まらない。

まずは自分の行動範囲の中で「ヘルメットを被って速そうな自転車に乗っている人にはちゃんとした人もいる」と思われたい。そしてやがて「ヘルメットを被って速そうな自転車に乗っている人にはちゃんとした人が多い」と思われるようになりたい。そして傍若無人な輩をマイノリティの中のさらに少数派に追いやりたい。やがてすべての自転車乗りの中で「ヘルメットを被って速そうな自転車に乗っている人はちゃんとしている」と思われたいと思うのだ。「こいつらはちゃんと走る」と思われれば尊重されるし車道でも必ず走りやすくなる。自転車のなかでロードバイクだけを区別して考えることは本意ではないけれど、一般の自転車とは走り方が全く違うのだから、まずは自分たちからだと思う。

何度かこのブログでも紹介したけれど、自分たちがどんどん走る事で世の中のロードバイクに対する認識をかえていこうと活動しているのがthink bikesだ。彼らの考え方は僕の考え方と極めて近い(だから応援している)。彼らの活動や広報がうまくいっているかは見解がわかれるところだけど、それでも自分たちが走ることで何かを変えたいという気持ちは応援したい。そしてこういった活動に参加しなくても、先に書いたように「まず自分が目立つことを自覚してちゃんと走る」という意識を改めて皆に持ってもらえればと思う。そんなことを糸魚川からの帰りの電車の中で考えたのでした。

次は「ちょっと残念な気持ち」になってしまった、ある自転車プロジェクトのお話。


ロングライドブログランキング