「自転車乗りにやさしい宿」を演出することはむずかしくない

もう一ヶ月以上前の話になってしまうけど、4月3週の週末、久しぶりにカミさんと輪行旅行した。旅行と言っても行き先は近場の長瀞。往復とも自走の予定が、土曜日はずっと雨だったので図らずも輪行旅行になってしまった。前週が東京の桜の満開で、ゆっくり花見をする暇がなかったので、おおよそ東京の一週間遅れで満開になる秩父方面に行ってみようということになったのだ。予想通り、行きの電車の中から見える秩父の山々はあちこちで桜が満開。翌日は快晴で、長瀞の延々と続く桜並木の下を走り、秩父から飯能を抜けて帰った。実は本当の目的地は長瀞でも秩父でもなく、飯能にある、とある廃校の校庭に咲く桜だったのだけど、この話はまた別の機会に。
奥多摩秩父長瀞辺りは東京の自転車乗りにとっては日帰りロングコースで、あまり一泊する機会がないと思う。でも、以前のエントリでも書いたけれど、片道80km〜100km程度のこのエリアを一泊で楽しむと、ちゃんと走って、尚かつ、のんびりもできて、充実したいい週末になる。温泉がある宿もあれば絶景の宿もある。地元の素材を使った料理もおいしい。
長瀞では長生館という宿にお世話になった。大きくもなく小さくもなく、程よい大きさの旅館で、長瀞駅から徒歩5分程度。ライン下りの乗り場がすぐ前で、庭を挟んで川と渓谷が見渡せる素敵な宿だった。部屋を案内してくれた宿のご主人らしき方は、自分も昔は自転車が好きで、ここから東京まで何度か自転車で行ったことがあるとのこと。翌日、宿を出るときも走りやすいコースのアドバイスをしてくれた。駐車場でバイクを組み立てている時には、クルマの誘導をしていた若い宿の方が、やはり自転車で走るといいコースを教えてくれた。こういう宿の方の自転車でやってきた客に対する気遣いを体験すると、前々から思っていたのだけど、自転車乗りに対してアピールする宿が、もう少しあってもいいんじゃないだろうか、と思う。
自転車旅行の時に、宿を選んで予約をとるのはカミさんの担当なのだけど、大抵は「じゃらん」などで検索をしてよさげな宿を選び、宿のサイトがあればそれも見て決める。そんな時に、宿の紹介のなかに自転車に関する記述を見かけたことがない。書いてあるとすれば、レンタサイクルのことと、そこで借りた自転車で観光ポイントを回るモデルコースとか。つまり「自転車でやってくる客」に対してのアピールはまず見かけない。
自転車乗りにアピールすること、「自転車乗りに気遣った宿」「自転車乗りにやさしい宿」を演出するのは難しい話ではない。自転車乗りは別に特殊な客ではない。たまたま移動の足が自転車というだけで、普通の客と同じだ。では、その自転車乗りが宿のサービスとして期待することはなんだろう。
一番は、駐輪スペースが確保されていて、夜間、盗難やイタズラの心配をせずに停めておけるということじゃないだろうか。屋内駐輪場などと贅沢をいうつもりはない。宿の裏手の軒下でいい。直接雨に濡れるような場所じゃなければ十分だ。自転車ラックがあれば尚いい。それもメーカー品の立派なやつじゃなくて、よく見かける建築現場の足場に使う金属パイプを組み合わせた簡単なやつでいい(サドルを引っかけるやつね)。そして夜間は宿が頑丈なチェーンロックを用意して施錠する。このことを宿の紹介文に一言書き添えるとすれば、こんな文章だ。

自転車ラック完備。夜間は頑丈なチェーンロックで施錠します。自転車でのお越しをお待ちしています。

自転車で初めて行く土地で、どの宿を選べばいいかわからない時、宿の紹介にこんな文章を見つけたら、僕は迷わずその宿を選ぶだろう。長瀞の宿で、自転車で来る客のことを聞いたら「結構いますよ」との答えだった。結構というのがどのくらいなのかわからないけれど、上に書いたような設備投資程度なら、スペースさえあれば数万円で済む。このことで何人かの自転車乗りが訪れたならば、すぐに回収できるだろう。あとほんのちょっとアピールするとしたら、たとえばこんなのはどうだろう。

料理長特製のゆずのスポーツドリンクを出発の時にボトルに詰めていってください。

こんなちょっとしたサービスも、自転車ラックも、今は「おっ」と思えば、皆すぐに写真を撮ってツイートする。うまくタイミングが合えば口コミとして自転車乗りの間に拡散するだろう。ほんの少しの演出とアピールで、そのエリアに自転車でやってくる客を総取りできる可能性がある。費用対効果を考えれば悪い投資ではないと思うのだ。
今まで泊まった宿でも、結構大きな宿なのに、玄関横の屋外の手すりにチェーンロックを掛けて停めることになったり、従業員用の駐輪場に停めることになったり、玄関先で輪行袋に入れて部屋に持ち込むことになったり、対応はまちまちで、部屋に持ち込んだとき以外は、翌朝確認するまでちょっと不安だったりする。
オーナーが自転車好きで、そういう雰囲気やインテリアで自転車マニアが喜びそうな宿というのもある。それはそれで楽しいと思うけれど、それは別の話で、普通の宿にそんなことは求めていない。ロビーにロードバイクが飾ってあったり、スタッフがジャージ+レーパン姿だとかw そういう話じゃない。昨年実施された「CyclingEX」と「自転車人」の共同企画「バイクコンシャスアワード」のショップ部門で「ポポペク」を推してくれたCyclingEXの須貝さんが「自転車好きが自転車乗りのために作った店というのではなく、自然と自転車乗りが集まるようになったのがいい」と言っていたけれど、そんな宿があってもいいと思うのだ。そして、それを演出すること、実現することは難しいことじゃない。
もし「お、そのアイデアありかも」と思った宿の方がいたら、気軽にメールで声をかけてください。「自転車乗りに優しい宿」づくり、アイデアでもなんでも、出来る範囲で協力します。自転車乗りとして、そういう宿が増えれば嬉しいし。


(以下、全く関係ない余談)
秩父本線に御花畑という駅がある。確か某自転車女史がここの出身だと記憶しているのだけど「ご出身はどちら?」と聞かれたら「お花畑です」と答えるのだろうか。某女史のイメージとお花畑出身というのはマッチするけれど、まるでジョークのようだw