効率的だから自転車に乗るわけじゃない

僕が「あー走りてー」とかき立てられたブログのエントリーはこちら。

4つのサイクリングロードをつないで日本海へ - Blue-Periodさんの日記

ツーリング日記を書く人は多いけれど、これほどブクマされたエントリーはそうそうないんじゃないだろうか。うまく言葉に出来ないけれど、このエントリーには「オレも走りたい」とかき立てるものがあった。自慢(自虐?)じゃないけど、ロングライドに関して僕はすれっからしだ。大抵のツーリング日記は「ほー」と思う程度だ。でもこのエントリーにはかき立てられた。「あーオレも走りてー」と。なんでだろう?
ブクマした多くの人もきっとそう感じたはず。写真もステキだ。

Blue-Periodさんのブログは、数ヶ月前にはてなの自転車ブログをあれこれ見ていて辿り着いた。そこで彼が初めてロードで走った時のエントリーを読んだ。少し引用させていただく。


使い方を覚えたサイコンのボタンを押してスピードを見てみると、ちょい待て、おいおいおいと。

なにこれ速い。

ぜんぜん速い。

普通に30km/hとか出てる。

ちょっと頑張ると、40km/hとか出る。

ぜんぜん違う

違う乗り物。

つか、前の自転車なんだったの?

茅ヶ崎へ、熱海へ、浜松へ、名古屋へ、漕いで行ったあの自転車はなんなの?

これはすごい

なにが違うんだ

ホイールか

700×23cのホイールか

ドロップか

ハンドルなのか

自転車は二の次だと思っていた

どうせロードでも25km/hでひいひい言うんだと思っていた

しかしこれは違う

ものすごく速い

止まらない

 
とりあえず大森へ、と思っていたら銀座へ着いていた。


このエントリーには思わず笑ってしまいつつ、強く印象に残った。僕は自転車の楽しさを誰かに伝えたくて本を書いているけれど、この文章には「敵わない」と思った。これは「初めての人」だからこそ書ける文章だ。迷わず彼のブログをはてなアンテナに登録した。

僕がアンテナに入れたことがきっかけなのか、本がきっかけなのか、どちらが先なのかわからないけれど、その後彼は僕のブログを訪れてくれて、興味を持って僕の本も読んでくれたようだ。ブックオフで見つけたというのが気に入らないけどw

時々、彼がメンテのことなどで試行錯誤しているのを読んで何かアドバイスしたくなったけれど「こういう人にはオッサンのお節介は必要ないな」と思いとどまった。彼は試行錯誤も楽しんでいるように思えたのだ。


話が少し逸れるけれど、最近、ライフハック系のサイトやブログが人気だ。仕事のこと、普段の生活のこと、様々なティップスが紹介されている。僕も時々「へー!」と関心してしまうような情報が紹介されている。でもだんだんそういった情報も次から次へと紹介されると辟易した気分になってくる。急き立てられるように、こういった情報を日々追いかけている人もいるんじゃないだろうか。
ネットの書き込みを読んでも、リアルで人と話しても、最近は「効率的に」という言葉をよく見聞きする。「効率的にやりたい」「無駄なことはしたくない」「遠回りしたくない」そんなオーラに頻繁に出会う。そういう人は皆、向上心があって前向きな意欲のある人にも思える。だから否定はしない。もちろん仕事を効率的にやることは必要だ。でもさ、そればっかりじゃないだろうという気にもちょっとなってくる。

嘘かホントかわからないけれど、twitter勝間和代女史をフォローしていたけれど「役に立つ情報が流れてこないのでアンフォローした」というコメントを某所で読んだ。何か勘違いしていないか。「この人をフォローすると役に立つ」といったリストも時々見かける。twitterに一体何を期待しているのだろう。tumblrについても「効率的に必要な情報が集められる」という解説をする人がいる。いや、それってちょっと違うような。多分、twittertumblrも「効率的」という言葉で括ってしまうと、その可能性や意味を大きく見誤る。

「○○まで行く一番楽なルートを教えてください」そんな質問が自転車系の掲示板ではよくある。危険なルート、走りにくいルートは避けるように、自分が知っていれば教えてあげたいと思う。でもバイパスと旧道、バイパスは路面もいいしアップダウンも少なく走りやすい。目的地に最短時間で着くだろう。しかし旧道の峠道を通れば素敵な景色を眺めることができたり、おいしい湧き水を見つけたり、もしかしたらタヌキや猿に出会えるかもしれない(笑)。バイパスを教えてもらって、ずっとバイパスを通っていればそんなことに気がつくこともない。
気がつくことが出来る人はバイパスを走りながら「あれ、山の上の方にも道があるな」と好奇心を抱いた人だけだ。

効率的なことを教えてもらっても、それを実行するだけでは教えてくれた人以上のノウハウは貯まらない。だってその人はその「効率的なこと」に辿り着くまでにいろいろな方法を試しているのだから幅や深さが全く違う。
「効率的に」という言葉を発した途端に、目の前に広がっていた世界が一気に狭くなってしまうように感じるのは僕だけだろうか。

僕は自分の本の中で、あるいはこのブログの中で自分のノウハウをいくつか書いている。「それって自己矛盾じゃね?」いやそうじゃないんだ。僕は自分で試してみて「いいな」と思ったこと、役に立ったことを書いている。でもそれは僕のやり方であって他の人にとっていいやり方かどうかは僕にはわからない。いいじゃん、少しぐらい試行錯誤したって。そのほうがきっと楽しい気付きもあるはずだ。自転車好きならきっとわかるよね。バイパスから上に峠道が見えたら次はその道を登りにいっちゃうような。
「都内を移動するには自転車が最も効率がいい」それはその通りだ。でも「だから乗っている」わけじゃないよね?


「路面もいいしアップダウンも少ないし、こりゃ距離が稼げるな」
「・・・・しかし、つまんねー道だなぁ」


先日の酒田行き。日光街道を走りながらこんなこと考えていた。
多分、ノウハウを100知るよりも、Blue-Periodさんのエントリーを読んだ方が「走ってみたい」という気持ちになるだろう。結局、人を突き動かすのはそういうものなのだと思う。


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