メンショフの叫びに泣いた

pedalfar2009-06-02

泣けた。
あのメンショフがここまで感情を爆発させたのを見たことがない。その瞬間「ああ、メンショフは本当に勝ちたかったんだな」と思ったら泣けてきた。

総合優勝がかかったジロ最終日の個人TT。アドレナリンが出まくりのそんなステージで、ゴール直前で落車。そして再び走り出しゴール。総合優勝決定の瞬間だ。そりゃ残っていたアドレナリンが全部投下された状態だったのだろう。それにしても「あのメンショフが」である。wikipedia:デニス・メンショフ
二枚目でなんでもそつなくこなすけど影が薄い優等生。そんなキャラだ。いつも淡々と走る。アタックする時もポーカーフェイス。落ちていくときも淡々といつの間にか消えている。表彰台に上がってもほんの少し笑顔を浮かべるだけ。これだけのリザルトを残しながらここまでオーラのない選手も珍しい。そんなメンショフが勝って吠えた。
「あのメンショフが!」驚いた。その姿を見て、彼は心底勝ちたかったのだと気がついた。本当に勝ちたいと思っている人が、本当に渾身の力を振り絞って勝つ。それを目撃したカタルシスがあった。

グランツールで「本当に勝ちたい」と思うことが出来る選手はごく僅かしかいない。あのランスでさえ、ヨハン・ブリュニールから「マジで狙おう」と言われるまで、ツールでの総合優勝は思いも寄らなかったことだったという(この話はブリュニールが書いたツール・ド・フランス 勝利の礎に詳しく書かれている)。

そんな「本当に勝ちたい」と思うごく僅かの選手が本当に力の限りを尽くして勝負する。でもそこは勝ちたいという思いだけでは勝てない世界だ。信じれば(強く思えば)救われるのは宗教の世界だけだ(宗教の話は苦手なので突っ込まないでね)。本当の意味での「人事を尽くして天命を待つ」という世界は、僕ら普通の人間の思いを越えた遙か高みにある。

スポーツやアートの世界には、普通の人は「そこに辿り着きたい」と思うことすら許されないような高みがある。しかし小さな頃からずっとそう思い続けてそこに辿り着く人もいる。ほとんどの人の思いはやがて日常に埋没しそれを思い出すこともない。

僕はこんな叫びを上げたことも、こんな表情をしたことも、きっとない。
でも言い訳はやめよう。それを「つまらない自分」と思うことは好きじゃない。逆に言えば、僕が思い描く「勝ちたいこと」「達成したいこと」なんて、そんな高みに比べたら、きっと僕自身が強く(本当に強く)思えば皆達成可能なことなのだ。だったらそれを片付けていこうじゃないか。
きっと僕がリアルに思い描けることで、僕が本当に心から思えば、出来ないことなどなにもない。

そして、もうひとつ。諦めないことは時として勝つことよりも遙かに難しいことでもある。
その拍手はディルーカに贈ろう。

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・・・090603 05:00 追記・・・

メンショフの叫びには全ロードレースファンが驚いたみたい(笑)

メンショフのインタビュー「シクロワイアード

おなじみ、がめんださんのブログ「ツールドフランスをテレビ観戦2009

及原ムメイさんのブログ「鞄の奥深く

tnkさんのブログはメンショフの同じシーン「wigglin’ bloggin’


ゴール地点で一般の方が撮った映像。

ラボバンクの公式映像。後半のインタビューはいつものメンショフだ。