新城の見た遠くの景色

pedalfar2009-07-06

ロードレースを見始めた頃は、そのおもしろさがさっぱりわからなかった。特にスプリント勝負のステージ。200km近い距離を延々と走って、最後のゴール前の数百メートルで「よーいどん」なら、1kmくらいの距離でレースすればいいじゃん。そんなふうに最初は思っていた。しかしやがて「そこまでのプロセスがおもしろい」ということに気がついた。なぜ今日はスプリント勝負になったのか。それがおもしろい。

チームのメンバーを見て、選手それぞれの脚質を考える。脚質だけじゃない。選手の性格もある。エース格の選手の順位を調べる。ライバルとのタイム差を確認する。コースのプロフィールを見る。そして展開を想像する。どんなスポーツでもバックボーンを知れば見るおもしろさが深まる。そしてロードレースはそれがとんでもなく深い。
ランスが言った「時速50kmで繰り広げられるチェスゲーム」は名言だ。でも緻密に練られたレース展開がある一方で、ゴールがスポンサーの大きな工場がある街だからその日は頑張るとか、コース途中に妻の両親の住む街があるのでその手前でアタックするとか、その日が誕生日の選手がいるからポイントを譲るとか、そんな人間くさい展開もあったりする。おもしろい。

昨日のツール第二ステージ。ゴール手前1km、ボクレールが列車の先頭にいる。ブイグは新城でスプリント勝負なのか???(マジですか?)。スプリントが始まった。ブイグは先頭近くに3人送り込んでいる。一番前は新城だ。新城が画面右に飛び出した。「カベンディッシュ!」と叫ぶ栗村さんに画面のこちら側で「後ろ後ろ!新城いるよ!」と思わず叫んでしまった。

同じプロの選手でも「スプリンターは別の人種」という。素人の僕など30kmくらいでも肩が触れるほど隣と近距離で走ると恐いのに、60kmを超える速度で肩をぶつけ合う。それでいながら、その速度で起こったことが鮮明に見えている。今はリクイガスのマッサーをやっている中野喜文さんが、ファッサ時代にスプリント直後のペタッキに駆け寄ると「73kmでてた」と言われて「よくそんな速度でメーターを見てられるな」と感心したという。スプリンターは普通の人とは別の時間の流れの中で走っているんだろう。

画像は新城が飛び出した瞬間。このアングルから見るこの瞬間が好きだ。実際には先頭と5m以上離れている。不利は承知。でも果敢に飛び出して最後の数メートルに賭ける。
完璧な列車に乗り一度も先頭を譲ることなく駆け抜けるスプリンターよりも、最後まで後ろに張り付き、最後の最後ですり抜けるようにトップを奪うスプリンターよりも、こうやって飛び出すスプリンターが好きだ。「あっとビックリ」の場所から現れるマキュアンも好きだけど、長刀をずばっと振り抜くようなフレイレのスプリントが好きだ。新城のスプリントはそんなスプリントだった。wikipedia:オスカル・フレイレ

飛び出した瞬間、新城に見えた景色を想像する。その景色もきっと「自転車で行く遠く」なんだろうな。

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